NLRB(全米労働関係委員会)の代理法律顧問がバイデン政権時代の労働に関する多数のメモを撤回し、米国労働法の改正プロセスを開始:雇用主が知っておくべきこと
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2.18.25
全米労働関係委員会(NLRB)の代理法律顧問は、トランプ政権下における労働法の新たな政策方針を示し、前政権が支持した十数件以上の方針を撤回しました。NLRB代理法律顧問であるウィリアム・コーウェン氏は、2月14日に発行した「法律顧問メモランダム25-05」において、前NLRB法律顧問が示した複数の方針を覆しました。これには、競業避止義務契約および「一定期間の在職または違約金」条項の適法性に関する見解、大学アスリートを従業員とみなすべきかどうかの判断などが含まれます。本コラムでは、この動向について知るべきこと、またこの変化にどのように対応するかについてご紹介します。
法律顧問メモランダムとは?
法律顧問メモランダム(GCメモ)は、法的拘束力を持つものではありませんが、NLRBの地域事務所に対し、全国労働関係法(NLRA) の執行における法律顧問の優先事項を伝える役割を果たします。このメモランダムは、雇用主、労働組合、労働者にとって、NLRBの現行方針や、特定の問題がどのように執行されるかを理解するための有益な情報源となります。
前NLRB法律顧問のジェニファー・アブルッツォ氏は、労働組合の組合員数の増加を促進する方針、雇用主が従業員に対して適法に意見を伝える権利(自由な発言権)の制限、全国労働関係法(NLRA)のより厳格な執行、保護される団体活動の範囲の拡大などを推進する複数のメモを発行しました。アブルッツォ法律顧問のメモの多くは、NLRBの判断を変更または覆す結果につながっています。
コーウェン代理法律顧問のメモは何を示しているのか?
コーウェン代理法律顧問は、その職務就任後の最初の仕事として、前法律顧問が主張していた連邦労働法の拡大解釈や新たな解釈を、新政権では積極的に推進しない方針であることを明確にしました。法律顧問メモ25-05の全文はこちらからご確認できます。
コーウェン代理法律顧問のメモは、2021年から2025年の間に発行された31件の過去の法律顧問メモに影響を与えました(なお、メモの一部には、大統領就任式の前に急いで発行されたものも含まれています)。
特に影響が大きく、現在は無効となったメモには次のものがあります。
- ほとんどの競業避止義務契約が連邦労働法に違反する とする見解
- 「一定期間の在職か違約金支払い(stay or pay)」条項の禁止
- 学生アスリートを従業員として位置付ける見解
メモが直近のNLRBの判断に与える影響
新たな法律顧問は、過去の法律顧問の指針を撤回することにより、NLRBが今後重要な法的課題に対して今までとは異なるアプローチを取ることを示唆しました。
例えば、以下のメモにより、長年の労働法のルールを変更した最近のNLRBの判断に関連する過去の法律顧問の指針が撤回されています。
- 過度に広範な退職合意書の提供が全国労働関係法(NLRA)に違反するかどうか(McLaren Macomb, 372 NLRB No. 58)
- 雇用主が「強制参加型スピーチ(captive audience speeches)」を実施できるかどうか(com Services LLC, 373 NLRB No. 136)
- 労働組合の承認要求の範囲の拡大および団体交渉命令の適用(Cemex Construction Materials Pacific, LLC, 372 NLRB No. 130)
重要な点は、コーウェン代理法律顧問のメモにより、最近の判決に対する現在の法律適用が直ちに覆されることはないということです。しかし、新たなNLRBが労働法の解釈を異なる視点で捉える可能性があることが示唆されています。
NLRBの新たな指導部がこの措置を講じた理由
コーウェン代理法律顧問のメモでは、現在のNLRBの案件負担が方針を撤回する理由として挙げられており、同代理法律顧問は、「残念ながら、すべてを達成しようとすれば、何も達成できなくなるリスクがある。」と述べています。効率的な案件管理が目的の一つである可能性はありますが、新たなNLRBは前任の方針とは大きく異なる立場を取ることが予想されます。
今後の展開について
このメモを踏まえると、新たな代理法律顧問は、労働組合の有無を問わず、従業員に影響を与えるNLRBの法運用に対し今までと異なるアプローチを取ることが予想されます。もっとも、NLRBにおける変化は時間をかけて進むものです。このメモには法的拘束力がなく、バイデン政権下で確立された判例が覆るまでには時間がかかるでしょう。現在、NLRBは定足数(法定最低人数)を満たしていない状況にあるため、雇用主が大きな法改正を実感するまでにはしばらく時間がかかる可能性があります。しかし、このメモは、バイデン政権下の方針が否定されつつあることを明確に示しています。
雇用主が今すべきこと
コーウェン代理法律顧問のメモは、トランプ政権下のNLRBによる新たな労働政策の方向性を示すものとなっています。
- 今後の最新情報を注視することが重要です。近いうちに、義務的な照会メモが発行され、NLRBの判決のうち覆る可能性のあるものに関して指針が示される見込みです。最新情報の入手には、ぜひFisher Phillipsのインサイトシステムをご購読ください。最新の情報を直接メールでお送りいたします。
- 短期的には、従業員が退職した際に、雇用主が提供済みの特定の福利厚生の返還を求める「一定期間の在職または違約金支払(stay or pay)」契約について、見直しや変更を検討していた雇用主は、州法の適用範囲内で、従来の契約に戻すことが可能になりました。
- また、このメモの発行により、NLRBの地域事務所は今後、競業避止義務契約の適法性を審査しなくなります。そのため、既に競業避止義務を設けている雇用主、またはその再導入を検討している雇用主は、今後の対応について法律顧問に相談することを推奨します。
- 実務的な観点から見ると、NLRBの地域事務所で係属中の案件を持つ雇用主は、和解に向けた動きが強まる可能性があります。案件の内容によっては、これが有利に働く場合とそうでない場合があります。例えば、この新たな法律顧問メモは、NLRB地域事務所が求める救済措置の種類に影響を与えることが予想されます。
終わりに
バイデン政権時代の法律顧問メモの撤回は予想されていたものであり、今後もNLRBの方針にはさらなる変更が加えられる見込みです。
弊所では、今後の動向や雇用主への影響を引き続き注視してまいります。Fisher Phillipsのインサイトシステムをご購読いただくと、最新情報を直接メールで受け取っていただけます。ぜひご登録ください。ご質問がございましたら、Fisher Phillipsの担当弁護士、本インサイトの執筆者、または当事務所の労使関係グループのメンバーまでお問い合わせください。
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